さくら

行倒れ

往診からの帰り道、ポケットの携帯が鳴る。20年以上付き合いのある飼い主さんから、道端に猫が倒れて苦しんでいると言う連絡。なんとかしてあげようと人が集まってくるけれど誰もさわれない状態。横浜市ではそのような場合、公的な対処のルートが決まっているが、ちょうど土曜日。第一報を入れるべき役所は閉まっているし翌日も日曜日で閉庁。私が回収に行くしかない。長年の経験から、このようなパニック状態の中で仕事をするときは、まず自分のできることを自分を含めた関係者の中で確認し、そして自分の最善を尽くす。そうすると頭もクールになって、状況の変化がよく見えるようになり連携プレーも順調になるのである。それなりの準備をしてから自転車で丘を登って20分後に現場に着くと犬の散歩中の人たちか、10人程の人だかり。道路脇で桜猫(避妊去勢手術をした印に耳の先端がカットしてある。地域猫すなわち飼い主がいないと言う印である)が口から血を流しながら統制の取れていない動きをしている。要するにのたうちまわっているのである。爪割れ以外は明らかな外傷はなく、多分交通事故で小脳を中心とする中枢を損傷し運動障害を現わしていると推察された。損傷部位は自然に拡大し遅くとも数日で呼吸を含む生命維持機能が障害され絶命する。診察中心配そうに覗き込んでいた人たちに状況を説明し、連絡をくれた知り合いを代表者にして病院に連れて帰った。出血は治まりつつあり呼吸は正常であったが体温は低く測定不能、全身性の運動失調。とりあえず応急処置をした後「役所が開く明後日までもたないだろう」と思っていた。そして1ヶ月、命の火は消えなかったのである。

食べる

自力で食べることのできなくなった飼い主のいない猫に色々な縁から治療が施されることになりました。ところが治療を始めて2週間後、突然嚥下不能になります。それまではなんとか強制的にいれていた食べ物も水も一切拒絶してさらに2週間、日に日に痩せて行きます。獣医師とスタッフにも、治療の到達点が分からない不安や治療の意義そのものに対する自問など苦痛がのしかかります。しかし、その後中枢神経を侵され点滴だけで生命の限界まで行った猫が突然「食べた」のです。この出来事に遭遇して私の心の中それまでの見解は文字通り一瞬で吹き飛ばされてしまいました。この後桜猫はどんどん回復します。"食べること"は"生きること"です。食べるって、すごい。

私の名前:さくら

3月23日 リハビリ控え室に移動

事故で失ったものを取り返しつつあります。完全じゃないけどいいんだ。部屋はぬくぬく。3歩歩けばご飯はあるし、生きてるだけで丸儲け。新しい財産もできました。私の名前:さくら。

脳障害?


4月11日リハビリ順調
4月11日リハビリ順調


百鬼丸さながら、失われた機能を日に日に取り戻しつつあるさくらですが、甘えた後じっと見つめていたと思ったら急に瞳孔が開いてジャンプ。人の顔にかぶりつきます。今話題の高次脳機能障害?人の顔がネズミに見えるのかな?ますます里親探しは無理ですなあ。大丈夫。一生ここで暮らしていいから。


さくらは高いところに登れるようになりキャットフードを棚に置いて置けなくなりました

さくら お務めご苦労様

最近、デブ猫になりつつあるさくらですが、何もせずに食べているだけだからと思ったら大間違い。人間の世界では凝り固まった肩や腰の筋肉をほぐすことが職業として成り立っているそうではありませんか。さくらの仕事は人の心の緊張をほぐす事。心の筋肉が凝っている人、そのために頭が不自由になってる人、是非さくらのところにいらして、その効果を試してみてください。笑いすぎて、お腹の筋肉は痛くなるかも知れませんが、さくらさんしっかりお務めを果たします。


 猫格の完成

一度は運動能力や感情の制御、視力まで失った一匹の野良猫が天の配慮か偶然の僥倖か紆余曲折ののちに全てを取りもどし、皮下脂肪と名前までもらい、精神的マッサージ師という仕事にも就いて日々を鼻歌交じりで幸せに暮らしている。周りの人間の同情心はいつしか親心に変わり人間の親まで獲得したのが少し調子に乗りすぎたのかもしれない。親だから老婆心がある。この子は真面目すぎる。ポンタまでとは言わないけれど冗談が通じてこそ一人前の猫だと親は思うのである。思い出すと止まらない。老婆心だから。そう、可愛い子には旅をさせろである。さくらを里子に出すことにした。宜しく御願いします。

もうほとんど家猫

生きているって、不思議だ

いきている事の不思議
いきている事の不思議

新しい仲間

ウメです。メス。10歳以上。左目はありません。右目は見えません。どんな生活を送ってきたんだろう。とりあえず今は安全です。

ウメ 「ごはん、まだですか?」   

サクラ「ねえ、ウメちゃんがごはんまだ?って聞いてるよ。ねえってばー。」



..........

久しぶりに見上げたの早朝の空は北斗七星が堂々と横たわりすっかり春の装いです。お日様が1日かけて一周する天空を星座達は形を変えず正確に毎日4分ほどはやく、一方、月は様相を変えながら大体二十五時間かけて一周します。地上では去年と同じ様にまた梅の花の季節が過ぎ、桜の枝の蕾が大きくなってきました。そんな今日の朝早く、梅の花の終わるのに応える様にウメちゃんが静かに息を引き取りました。

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